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WE300B シングルエンド/ステレオ構成のアンプを作る

WE300Bシングルアンプ回路設計と製作@
 
 最近の専門誌の製作記事の多くには失望させられることが増えました。
著作者の権威とは、多くの経験と見識に満ち、「その道でメシを食っていない」高度なアマチュアであって、専門誌はその作品の披瀝で読者の興味を惹くものです。
現実はどうでしょう? 
専門誌の編集者がタレント的に作った「馴れ合い」の数人の、実に経験の浅い方の試作会の様相を呈し、編集側の要望もただ安く作れ…だけに固執しているそうです。
それでは著作者の権威も何もありません。内容の格調を感じさせる記事は極端に減り、当然読者は減る一方です。
その中でも長年に亘り見識ある記事を書いておられる少数派の方とはご面識もあるのですが。
全国の真空管自作ファンが僅か10名ほどの著作者の記事だけを信じてアンプを自作したり、キット製作でお茶を濁している現実がある一方、「どげんかせんといかん」と各地に真空管ファンの集いが出来ているのは大変好ましく、それらの集いを良識と品位のあるリーダーが牽引されているのは実に喜ばしいことです。
決して一部の「親分肌」の方たちに席巻されたり、時に招かれる特定著作者の方に偏らず、逆に著作者の方に強い刺激とアマチュアの見識の高さを見せつけて欲しいと願います。
 一方真空管アンプキットは『音楽再生』は形だけのプラモデル的製品ばかり、他方ではワカル者からみれば法外な価格のアンプも売られてギョーカイは品位を失っています。
浅薄さはオーディオ界を貶めるもので、ファンは法外な価格=高級品とのイメージ先行から脱却してほしいと思います。高価なものにはウソも無い――と云うのも現実です。

 そこでかなり前に連載し、ちょっとした理由からその連載を勝手に消してお叱りを受けた300B/SE(シングルエンド)アンプの製作について、新たな見方から我流に解説します。
この連載の発端は或るお客様(S氏…とします)がお知り合いから譲渡されたキットを改造したいとのご希望からで、その改造範囲で当方が提案した回路が根幹となります。
そのキットの音質に関して真空管アンプには全く無縁だったS氏が「この音何とかならないか…」と頂いたのがキッカケではありますが、当方はメーカーで普段はご相談に応じることは控えていますので念のため。
連載は途中に寄り道し「余談」も入る上、いつ<充電>のため休むか、いつ終えるのかは判りません。

 正直私は『また300B/SEか…』と思っている人間です。満7年時にウエスタンの91型のコピーを2年に亘って120台ほど製作・販売、同年に限定10セット+試作1セットの300Bパラプッシュアンプも製作し、このパラプッシュは阪神淡路大震災で壊れた1組を除けば全部健在です。シングルとパラプッシュを合計しただけでも球数300本近くなりますが、『Live U』というMONOプッシュを長く販売してきた実績もあるので、300Bアンプの製作数を球の本数に換算すれば1000球に相当するアンプを作ったことになります。。
 <91型>はご本家ウエスタン・エレクトリック社の唯一の300Bシングルエンドのアンプで、電圧配分にも忠実なコピー(オリジナルの初段はヘッドアンプなので省略)に徹底したのが特徴でした。
他に製作した多くのWE300Bを使ったアンプも、今ならこうしたかも…と云う部分がありますが、その後の考察や音楽表現力を求める姿勢の変化なので仕方ありません。
 この20年間以上、専門誌に300B症候群的な記事が常時溢れていて食傷気味なのは私だけではないでしょう。それゆえ『300Bだけが真空管じゃあるまいし』と反駁する思いもあるのです。
専門誌がイタズラに作ってしまったその風潮は、先日ヤフオクで落札された<WE300Aペア>の金額にも表れています。何と2本で801000円!! 気ちがい沙汰(放送禁止用語?)です。
…余談ながら私が習った先輩からは「3極管にペアと云う考えは無い」と云っていました。EP/IP曲線が異なればそれは別のタマ、僅かなバイアス電圧の変動に大きく電流値が変る多極管にはペアが必用でも、バイアス値よりも使用電圧の設定に大きく影響される3極管は、同じ動作ポイントなら特性が揃っていて当然だから…ペアになってしまうのです。
2本が80万円もする300Aの値打ちを云々する立場にはありませんが、ソコまで価値を付けた球なら出力トランスには最低でも@20万円のもの(そんな金額の、正当なOPTなど存在しない?)を使われるのでしょうし、それ相応のオーディオシステムとアンプ製作の腕をお持ちなのでしょう。私なら製作は幾ら大枚を頂戴してもお断り…作ったアンプに80万円相当の球を差し込んで2年以内に壊れようものなら製作者が疑われ、恐らく2本分80万円の損害保証をさせられるでしょう。おおコワ、さわらぬ神に祟りなし。

 例えがワルくて恐縮ながら、300Bばかりを礼賛するのはMモンローが嫌いで吉永小百合が好き…と云っているような気もし、食わず嫌いの妙な憧れを300Bに抱き過ぎるのも滑稽です。
良い多極管にシッカリ予算を投入して作ればとても豊穣な音のアンプも出来ますし、それなりに物量を投入して「コレぞ300Bの音」と信じていても実際にはドライバー回路の音を大きく反映しているからです。それほどドライバー球の選択と使用法も失敗しないための大切な要素です。
 でもこれほど300Bと騒ぐワケ…それを冷静に分析すればなるほどシングルアンプなら作る意欲も湧くか…と思い当ります。WE300Bは高価ですが2本なら何とかなりそうです。球が高いのですから真剣にアンプを作ろう…と云う気にもさせて…それなりに音の良さそうなOPTや部品を選びます。比較的簡単に8W以上の出力が出ますから家庭では必要かつ十分です。
そこで私も考えを改め、折角なら本当に300Bが持てる実力を出来る限り出してくれそうなシングルエンドのアンプを作ってやろう…と云うのが今回の目的です。

 恐らくWE300Bの多くはタンスに大切にしまわれたままになっているでしょう。
サウンドパーツのお客様にも過去25年以上の保有者だけでも数えきれないほど居られ、それ以降今に至るまで25歳トシをとられてもまだ1000本以上がタンスに眠っていると予想します。
中には300Aの保有者も居られるので、いっそそれをヤフオクに出して80万円也で手放し(ヤナギの下にどじょうは2匹居なくて、その後高価な出品額の300Aは総スカンのようですが)、欧州旅行にでも行ってホンモノのクラシックを聴いて来られる方がパートナーのため…と提案したいほどです。
 さて、からかうのもホドホドにして本題に入りましょう。

 300Bはプレート損失(プレート電圧×プレート電流の最大定格)40Wのタマで、WEご本家の91型が実質プレート電圧350V×プレート電流80mA=28Wという設定は70%の超余裕設計です。
この本家本元の使い方以上の酷使(LUX/MB300などは酷使しています)さえしなければ恐らく30年は軽くモチます。そのLUXでも頂部が大きく黒ずんでもまだ平気です。
つまり過去にWE球でヘタった例を知らないものですから、70%の使用法なら創業30年の経験から30年以上でも大丈夫…と証明できます。
従って「大切なタマだから…」と91型用法を下回る「余裕を持った設計…」と云う考えはあまり意味を持ちません。60%の用法でも前述の70%の用法と事実上寿命は変わらないと思われ、逆に「もっと良い音があるのでは?」と欲求不満がつのるだけです。
300Bの本当に良い音を聴きたければ本家本元「お墨付き」の用法を採用した方が実力を知ることになります。
従って今回の連載はこれを基本に設計するのが大前提です。もし31年目に壊れても、それまでホンモノの音を聴いて来たのならが納得…というものです。

 さて下図は最近の専門誌に掲載されたキットの回路です。
   

 

 記事の解説を読んで総轄すれば「魅力ある音」で、2〜3Wを超えた辺りで歪率1%を超え、6Wで5%〜8Wなら10%…というもの、5%も歪むと誰でも実際には聴き苦しくなります。
著者はこの解説記事を引き受けて本当は困ったろう…と想像します。2〜3Wで1%を超え…というトコロで既に著者の苦しい思いが伝わります。キット価格は中国球付き21万円だそうです。
この回路は間違ってはいませんが、明らかにスイング不足です。逆説的に言えば大きく歪率を改善できる余地があります。
今回は他社製品の批判が目的ではありませんがなぜスイング不足か? なぜ小出力で歪むのか…次回からの解説でお判りになるでしょう。


 WE300B・SEの設計と製作A

 
300B/SEアンプを作る前に、アンプの正しい設計のための大原則の幾つかについて、最近は述べられることがありませんので解説します。
<入力電圧とパワーの関係>
 300B/SEなら高域の歪がわずかに耳障りとなるギリギリが8Wほどです。このポイントで歪率3%を少し切る程度でしょう。
 一般にアンプの入力電圧はオーディオの世界では<0dB=0.775V/RMS 1kHz>の時にフルパワーに達することと決められています。
入力信号が実効値0.775V≒ピーク1Vの時に最大パワーに達するようにパワーアンプは設計しなさい…と云う大原則です。
そうでないとプリから何Vもの大きな出力を入れないとパワーが出ないアンプや、僅かにボリュームを上げただけでスピーカーを破るほどのパワーが入る…など作り手任せの勝手な基準になるからです。
元々0dBでの「信号伝送」と云う取り決めが『大原則』で、ムカシはチューナーとか録音機の出力も0dB/0.775Vで「送り/受ける」と決められていたのに、SONYとPhilipsから出たCDプレヤーから2V以上の基準ができ滅茶苦茶になってしまったのです。…マランツ7・マッキン22プリのフォノ・イコライザーからCDに切り替えると、大きくボリュームを絞る…と云う状況はこの時から起きました。
「RMS=実効値」と云うのは、直流は一定電圧で山と谷が無いのと同じように交流の山の部分で谷間を埋めた値を示す値です。
交流波形のピーク部分を表すのが「ピーク値」、エネルギー値=RMS/実効値はピーク値を√2で割った数値ですから電圧では約0.71倍です。
もっと判り易い例では、家庭に来ている電圧が100V…と云うのはRMS/実効値=仕事量のことでピーク値は波形の山ですから141V来ています。
音楽信号はピーク値で云うときも実効値で云うときも有るので使い分けます。xxV/ピーク…とか○○V/RMSの出力…などと表現します。
パワーは電圧の二乗ですからピークパワーはRMSの2倍、『ミュージックパワー』ばピークパワーのことで、アンプの出力は仕事量としてのRMS表示が原則です。スピーカーに入る信号はRMSの2倍のピークパワーに注意しなければなりません。
 300B/SEも大原則の0dB入力時にRMS/8W超に達するものとして設計します。無論もっと大きな電圧を入れれば歪みながらも出力は増え、半導体アンプとは異なって急激に大きく歪むことはありません。
しかし仮に半導体のアンプで最大400W…と記してあれば、それも入力0dBの時に達するワットですから、そのアンプが8Wの時には0.775Vのたった2%(400W×2%=8W)時と言うことになります。現実に同じオーディオ装置でその2台を使い分けることは無いでしょうが、使う時には大出力アンプは高感度過ぎて使いにくいコトから半導体大パワーのアンプの多くには「入力用固定アッテネーター」をつけて万が一に備えると共に使い易くしています。
ボリューム以外に<−20dB>などのレバースイッチが付いているのがその例です。−20dB=10%のことで、つまり大パワーアンプは入力でいきなり感度を落さないと家庭で使うには不便であることが判ります。このスイッチをONしておけば過大入力は不可能なので0dBが入っても40W以上にはならない理屈です。でも折角のプリの信号をいつも抵抗で10%に落とすなんて愚の骨頂とも言えます。
逆説的に云えば、このスイッチを入れっ放しで使うなら、家庭で400Wのアンプを使う必用性など無い…と云えます。パワーは音質とは無関係ですから「力がある」…など専門店や専門誌に踊らされているだけです。
 でも300B/SEのアンプも入力信号0dBに達しないと最大パワーにならない…と云うのでは、ソコソコ能率の良いスピーカーを使っていても、20W以上のパワーのアンプと同居する時には感度が低い印象を与えるので不利です。そこで今少し入力感度を良くして、0.3〜0.5VRMS…つまりピークで0.5V前後の入力で最大パワー8Wに達するように作っておくのが一般的です。

<利得の考え方>
 では300Bから比較的歪の少ない8Wを取り出すにはどのように設計するのでしょうか?
出力管は一定のスイング電圧を要求します。スイング電圧はドライブ電圧と同じで、大きな信号をプレートから取り出すために指定のドライブ電圧をグリッドに入れてやります。
これはその球のバイアス電圧と一致します。つまりバイアス電圧とはスイング電圧のための入り口の高さのようなもの、固定バイアス(Fixt Bias)の時にはグリッドにはマイナス電圧を、自己バイアス(Self Bias)ならカソードにプラス電圧を作ります。
指定のバイアス電圧をスイング=ドライブするためにはバイアス電圧以上の大きな信号電圧を増幅段で稼がないと300Bは最大電圧を少ない歪率で出せません。
 ここで300Bのデータをご覧ください。マキシマムで使うのはコワいし200〜300Vのデータで作るのは2A3みたいで勿体無い…表は単なるデータですからメニューは自分で決めねばなりません。

       
 
 この表で<プレート電圧>はバイアス電圧を差し引いた実効値値のこと、パワーは球のプレートに於ける値、セカンド(二次)〜サード(三次)高調波はdB値が大きいほど歪が少ないことを表します。

この表でWE91型で採用されているものが今回の設計値です。
 <プレート350V・バイアス-71V・負荷抵抗(OPT)2.2kΩ>
…で、示された歪率の時に球出力9.6Wであることが判ります。つまり71Vドライブしたら得られる値です。 負荷抵抗が小さく…8Ω出力へのステップダウン比も小さい…つまりOPTによる音作りを避けることができて良い音質が期待できます。
従ってアース電位0Vに対し71V+350V≒420Vをプレートに掛けないと歪の少ない8Wは得られません。
 一方先に述べた原則論では、バイアス電圧71Vはアンプの入力信号が0dBの時に300Bのグリッドに送り込めるピーク電圧とする必用があります。前に述べたとおりもう少し感度を良くしてピーク電圧0.5Vで設計する方針ですから入力から300Bまでの利得を130〜150倍にし、しかも70V以上の歪の少ない信号を300Bに入れないとダメ…と云うことになります。
 以上で設計の要素が決まりました。
70V以上もの大きなスイング電圧の要求が300Bの持つ宿命です。深いバイアス電圧を持つ球ほど増幅段の設計は音を決定づける大きな要素になります。
91型は元々が光学録音再生用のプリ段を持ったアンプです。利得の大きなWE310A×2段でプリ部とドライブ回路を持つ構成、現代アンプでは91型の初段の310Aは不要です。
知っておく必要があるのは、多極管ドライブの最大の欠点は13kHzくらいから急速に高域の落ちる特性です。
WEはNFBで上手く特性を取っているものの、オーディオアンプでは310Aの1段ドライブですからそれは感度落ちなどムリが生じます。
折角皆さんお好きな「直熱三極出力管」の良い特性を生かすにはドライバーに多極管は用いたくない…と云うのがホンネです。周波数特性の良い『オール三極管構成』で作るところに醍醐味があるのです。
 ここで前回示したキットの回路をご覧ください。増幅段は6SN7で2ユニット入りの球ですが、1ユニットの利得は理想でも20倍ほど、仮に2ユニット並列でも内部抵抗が半分になるだけで利得が大きく増えるわけではありません。
回路図の6SN7 と300Bとは直結なので、300Bのカソード電圧182Vから6SN7のプレート電圧110Vを差し引いたバイアス電圧は72V、これは確かに91型のセオリー通りなのですが、感度から見ればスイング電圧の不足は明らかです。




 WE300B/SEの設計と製作B

<初段管を決める>

 初段を何にするか…選択肢が多過ぎて困ります。
音の良い球にしたいのは誰しも同じ思いですが、2段目以降を考えると利得はそれほど必用ありません。
設計条件は0.5V入力程度でフルパワーを目指すのですから、スイング電圧75V程度として150倍あれば良く、初段の「稼ぎ過ぎ」は逆に困るのです。
したがって初段はせいぜい15〜20倍とし、2段目は10倍〜15倍程度に選ぶのが妥当です。
 真空管の係数にひとつに<μ/増幅率>があります。この数値がそのまま真空管の増幅度…ではありません。<μ>次の計算に用いる係数に過ぎないのです。
  真の増幅度=μ×{RL÷(Rp+RL} RLとは負荷抵抗 Rpとは真空管の内部抵抗)
 フツーの回路で大まかに云えば真の増幅度はμの50〜70%くらいと考えてよく、代表的な球はB電圧を250V程度としたときに次の目安となります。
末尾の数字はこの球がどれほどの出力電圧が取れるか…を表す目安です。
元々このデータはRCA発表の「CR結合データ」つまりプレート抵抗と次段のグリッド抵抗(正しくはグリッドリーク抵抗)とを直流カットのため「カップリング=結合コンデンサー」で結んだ時のもの、ラジオ技術社<オーディオ用真空管マニュアル>にも掲載され、著作者の多くが参考にして回路設計をするバイブルのような存在…からの抜粋です。
  12AX7 μ100   53〜70倍  ピーク最大電圧25〜37V
  12AU7 μ17〜20 13〜14           18〜33V
  12AT7 μ60    35〜40          35〜40V
   6SN7  μ20    15〜16          38〜53V
   6SL7  μ70    37〜50          38〜54V
 倍率はカソードにバイパスコンデンサーを付けた時(=電流帰還を掛けない)の値で、全て双3極管ですが1ユニットのデータです。
このデータだけだと出力最大電圧は12AX7や6SL7が多く取れて具合が良いように見えますが、このように大きい電圧を得るために大きな値のプレート抵抗を必要としている背景があり、余り現実的な数値ではないことを理解しておく必要があります。つまりプレート抵抗を大きく取ると次段のグリッドはそれ以上の大きな値を選択しなければならないので何かと具合が悪いのです。
 もっと大きな出力電圧を得るには電源電圧250Vを上げます。300B/SEの場合、2A3の電源電圧300Vに比べれば楽に400V以上の電源電圧が得られますからそれは容易です。
この数字が重要な意味を持っていることにも気付かされます。それはキットによくある初段と2段目との直結です。直結にすると2段目の各部電圧から初段のプレート電圧を差し引く動作になります。
真空管は1本1本の動作規定があっても実際には良くも悪しくも大変ラフであり、また経年変化で電流が落ちてくるときもあります。初段と2段目とに限らず「直結」はアンプが完成したときだけ設計通りに動作しますが、経年で変化したり球を交換すれば異なる動作になる場合もあるので定期的にチェックを要し、安心して長期に使えるものではありません。
「直結」でたった1個のコンデンサーを省略できても、たとえばスピーカーが2ウェイ以上のシステムなら中高域のユニットには当然低域カット用のコンデンサーが在る…などの矛盾もあるワケです。アンプ内のコンデンサーには製作者しだいで遥かに良品が使えます。直結で2段目以降の電源供給電圧が制約されて思うようなドライブ電圧が得られず、それを避けて大きな電源電圧を求めれば市販の電解コンデンサーの耐圧を超える余計な対策や特殊部品が必要になるなど、難しいことが増えます。

 このデータに話を戻しましょう。
初段の球は、バイアス電圧(=カソード電圧)が低い2段目の球のドライブのため15〜20Vの信号電圧を送り込めば良いのですから上記候補球はこの点は全てOKです。
でも2段目の利得も考えると初段に大きな利得は必用がありません。従って候補は12AU7と6SN7となります。
6SN7は6J5が2ユニット入ったタマ。大まかにはWE262B/347とも6CG7/6FQ7/12BH7とも類似、5692は高信頼球です。実際には12AU7とは定数がチョット異なるだけの類似球、ここではキットなどに多く採用され入手も比較的容易で一般的な6SN7を使うことにします。
 余談ですが、ルックスからMT管を嫌ってGT管を選ぶ方は著作者の方にも多いのですが、真空管の発達の歴史から見ればそれは偏見です。
確かにGT管は外観は堂々としていて好ましいのですが、プレート面積はMT管と同等で意外と小さく電極の支え方もプアです。シールドしにくいので外来ノイズを拾うこともあり、MT管のように電極を支えるピンがそのまま端子となっているのと違ってガラス管内からリード線を引き出して端子尖端でハンダしているので、ハンダ不良がノイズや接触不良の原因となることも多く体験しています。
振動がノイズの原因となる「マイクロフォニック」はほとんどの場合カソードの振動で、上下のマイカの支持方法でも明らかにGT管の構造は不利です。このことはパワーアンプ初段もプリアンプでも重要です。
またGT管やST管は余りに種類が少なく選択肢が限定されます。
 
 ここでWEが発表している262A(262Bもほとんど同じです)の、含蓄の多いデータをご覧ください。このデータは原則論そのもので、理解すると今の専門誌に掲載される多くの回路が何か大切ものを忘れている気がします。
 Amplification Factorは利得倍率、Plate Resistanceは262の内部抵抗でプレート電流が小さいと当然ながら内部抵抗は大きいことにも注目、Load ResistanceはRLつまりプレート負荷抵抗のことです。
出力はミリワット表示ですが大きければ出力電圧も高く取れます。セカンド/サード・ハーモニクスは2次高調波/3次高調波歪のことで、値が大きいほど歪が小さいことを表します。
初段はなるべく歪の少ない設計が求められます。データは6SN7とも類似する部分が多いので動作の傾向がつかめます。
 初段の音は2段目・3段目でどんどん増幅されるのですから、B供給電圧が大きく取れても、意味なくプレート電圧を高くする必要はありません。
今回の設計では入力信号0.5V前後から15〜6倍してくれれば良い…と云うことはプレートで歪の少ない信号電圧が10Vも出てくれれば十分なので下記データのプレート電圧112.5Vと云う部分に注目します。
球にもよりますが、初段がプレート電圧100Vを割ると音が少し暗く重くなり…つまり高域の延びを感じなくなります。また140Vを超えると低域が薄くなる傾向があります。
専門誌の著作記事が面白くないのはこの辺りの著述をもっと著作者の思いを入れて述べないからで、それは著作者の方に聞くと編集でかなり文面をカットされてしまうようですから、面白さを欠いている犯人は編修者かもしれません。
 下表で112.5V〜135Vと云う設定が在るのは初段として見る限り「わが意を得たり」、このデータを見るたびに音とプレート電圧に関係を「WEさんはよく判ってらっしゃる」と感じてしまうのです。

      
 
 ここで初段のカソード電圧の設定について、私の経験をお話しします。
それはバイアス電圧が大き過ぎると何となく音に躍動感が無くなる…と云う傾向で、飽く迄個人の感覚です。
そこで初段はバイアスを適当に小さく取ることも大切な気がします。アンプとしては理論上ミニマム1Vあれば良いのです。
カソード電圧=スイング電圧ですから、予想される入力信号電圧(この場合は1V未満)に対して大きなバイアス電圧を設定すると…水深の深いのに僅かに起きた波を増幅させる…からだと思っています。
もしバイアス電圧を許せる限り低めに取ると、アンプが最大出力に達する時に入力信号もバイアスに対しても十分に大きくスイングするのでイキイキするような気がするのです。
このことはプリのラインアウトに使うタマにも共通します。ただ、余りにギリギリでは歪率に影響しますから「程度問題」です。
 そこで上表の112.5Vを採用した場合にも−3.0V/2.8mAのデータに注目します。倍率15.5倍・内部抵抗15kΩです。
この「内部抵抗」と云う数値は、私のように専門教育を受けていない人間には計算方法が判りませんからタマのメーカー発表値に従うしかありません。
「内部抵抗値」を知るために考えられる方法は単段で動作回路を組み、プレートの出力を結合コンデンサー経由で1MΩ以上の大きな抵抗で受けて適当な信号入力と出力電圧を測っておき、次にその抵抗を可変抵抗に替えて、先に測定したのと同じ条件で信号電圧が先の結果の丁度半分になるような抵抗値が「内部抵抗」に近いと考えます。出力を受ける抵抗を十分大きくして開放に近い動作から、抵抗値を下げてピッタリ半分の電圧にになった時、内部抵抗と負荷抵抗が並列になっていると予想できるからです。
 実際には真空管の回路を考えるときにイチイチそのような係数を実験から見出すのは大変厄介で意味もなく、回路設計は多くのデータから常識的にやれば良いのです。
そこで私は球を単純に抵抗と考える<プレート電圧÷プレート電流>を回路設計上の球の≪内部抵抗≫と考えて回路設計しています。
するとこのWEデータに於いては、発表の15kΩに対して私の計算値は112.5V÷0.0029A=38.8kΩにもなって、メーカー発表「内部抵抗」の2倍以上になるのですが、RLは大きいほど歪が減る…とデータは云っているのですから問題はありません。。
同じ表で、例えば最も電流値の多い使い方をしたいなら、マキシマム・データの112.5V÷0.004A=28kΩと云うふうに回路計算するのです。WEデータでは13.4kΩですがこの我流計算値を使う方が問題がないことを経験から見出しています。実際にRL=rpつまりメーカー発表値の内部抵抗と同じ抵抗値のプレート抵抗にすると、とても歪っぽい印象で聴けたものではありません。
 ちょっとハナシが反れますが、例外としてはマッキン275の12BH7のプレート抵抗が400V近いプレート電圧時にたったの12kΩと云う例があります。これはプッシュで打消し効果を狙った上にNFBを考てのこと、プレート電圧を極端に高く設定することで出力管に必要な大きなドライブ電圧を送り込み、出力管自体は異例なほど大きなカソードNFBを掛けて利得はほとんど無い「電力変換」のみとさせるだけで、前段の12BH7で大出力時に要求される大きなスイング電圧を得てしまおうとする使い方です。凄いコトを考えた設計ですが、プッシュに大量NFBとう回路設計だから可能なもので300B/SEではとても採用できない手法です。
 また私はトランス結合とかプリOPT出力の計算の時は<プレート電圧÷プレート電流×0.6>をトランスの一次インピーダンスのミニマムの値としています。このことは300Bなど3極管とOPTの負荷インピーダンスの計算時に述べる予定ですが、あの「負荷曲線」から最適負荷を求める面倒さを避ける、いわば『簡易計算法』が<実質プレート内部抵抗の0.6倍>となることに気付いたのです。
このことは多くの製作経験と試行錯誤から得た、トラ結での優れたデータを得るに必要な要素です。
 初段の設計方針の結論として負荷抵抗RLの計算は、メーカー発表の「内部抵抗」は参考と割り切り、球を単純抵抗とした<プレート電圧÷プレート電流>を使うのが回路設計も容易で歪率が少ないと云う点でも優れていますから、今後この値で計算を進めることにします。
 さて上表の右半分はプレート抵抗の選び方で、<R=rp>とは負荷抵抗=プレート抵抗を内部抵抗と同じにした時のものです。
前述の通り「内部抵抗」は球を抵抗とみた数値…つまり単純にプレート抵抗での電圧降下も1rpにつき112.5V…と云うことになりますから、供給B電圧は単純にプレート電圧の2倍の225Vにしなさい…と云うことになります。表では単純に<R=2rp>とか<R=5rp>を「提案?」していますが、これはプレート電圧を112.5Vに固定した時の値なので、1rp増えるごとにB電圧を112.5Vづつ上げろ…という意味なので簡単に実現できません。<R=5rp>と云うとB電圧は112.5V×5倍+元のプレート電圧=675V…もの高圧を求めていて、それは理想でも「理論」に過ぎません。歪率改善のためには得られるだけ大きなB電圧を得て、できるだけ大きなプレート抵抗を使うのが良い…と云うことを示唆するデータを提示したよ…とWEのデータは云いたいワケです。
 ただここで重要なコトも学びます。それはWEさんの主張するデータによれば、プレート負荷抵抗RLが内部抵抗rpを下回ることはアタマっから想定外でデータの発表すら無いと云うことです。
このコトを言い換えれば、もしB電圧の2分の1(R=rp)を超えるプレート電圧を設定すると、<RLプレート抵抗>が<rp内部抵抗>よりも小さいことになる…のですから、歪増加と云う点からも避けるべきなのです。
もしお手元に最近の専門誌の真空管アンプ回路図があれば、著作者がどのようなB電圧とプレート電圧の関係にしているか…興味をもって見てください。案外「設計真意不明」が多くあります。
折角のB電圧を習慣的に前段用<π型フィルター>として抵抗とコンデンサーで構成する「デカップリング」回路でドロップさせ、結果としてプレート抵抗を小さい値にしたり、供給B電圧の2分の1を遥かに上回るプレート電圧を設定している例が実に多いのです。



 WE300B/SEの設計と製作C

 <2段目=ドライバー管の動作を決める>
 やや唐突ですが、ここで2段目の通称「ドライバー段」の設計に移ります。
初段管と出力管の設計はそう難しいものではありません。でも2段目は違います。特に大きなスイング電圧を要求する300Bでは色んな条件があります。
300Bはμ=3.85倍…つまり単純に前段までの音を3倍以上も増幅するのですから、300A×2本に大枚80万円をはたいても「前の音」を3倍も増幅して聴かせている音…とも云えるのです。
つまりシングルエンドのアンプだから…と云っても出力管1本で音が決まるハズも無く、同じようにOPT(出力トランス)とか整流管・限られた部品・ハンダの種類だけで決まるのでもありません。
そこが自作の愉しみ…と云うワケですが、ネットに溢れる不真面目で無責任な議論は全てを針小棒大の如く述べ、今ハヤりの表現をすれば『上から目線』のあたかも100年も1万本も真空管アンプを聴いて来たかのような記述もあって大嘘だらけ、既成概念に溢れた「頭上のハエ」も一杯いるみたいです。世の中辛口でモノを述べると『上から目線』と叱られそうですからウッカリ言えませんが…。
 さて、2段目までの歪が多ければ歪っぽい音、暗ければ暗く・明るい音なら明るく…正直に出力するのも<直熱三極管>殿の持つ宿命、ドライバー段を妥協したり安直に考えると後悔します。
製作経験ではWE349/3結やEL34/3結、果てはWE421Aによるドライブから誰もが試みるドライバートランスの使用まで、実に多くのパターンのSEアンプを作りました。
どれもがそれなりの特徴を持ちますが、意外に「音」で苦労するのがドライバートランス、特に一次側に電流を流すタイプは何を試みても独特のキャラクターを感じてしまいます。
それがオーナーのお好みかどうか…と云うのが運命の分かれ道です。この記事ではフツーのCR結合回路の解説が目的ですので、トランス結合は後日に回します。
 
 蒸留水のように味も素っ気も無い、スピーカーからはミュージシャンの感情など伝わって来ない平板な音しか出ないアキュフェーズやエクスクルーシブに代表されるな高価な半導体アンプや、LUXあたりのKT88とか50CA10に高過ぎる電圧を掛けた高帰還型で性能だけを謳う低域の薄〜いアンプから、始めてチョイと出来の良いWE300B/SEを聴くとある種のショックがあります。
それがとても音楽的でシングルとしてはパワーも有るので意外とどのスピーカーも上手く鳴らし、声やピアノなどの再生もアキュやエクスの比では無く優れてナマナマしいからです。
そのことを、まるでヒヨコから孵った時に初めて接する人間を親と間違うように、WE300B/SEだけが唯一無二の真空管アンプであるかのように思われて吹聴され、ワル乗りの専門誌で「これでもか〜これでもか」と年間何度も製作記事掲載を繰り返して「良い良い」と過去20年以上も吹き込まれたら、純真無垢なファンは誰もが300Bを真空管アンプの最高峰だと思っても仕方ありません。
でもそのアンプがドライバー段の音も大きく反映しているのは勿論、300Bそのものの「用法」やOPTの性格が加わると実は「300Bシングルアンプ」には一つとして同じ音はありません。
300Bをつかったアンプの全部が良いワケなどあり得な〜〜い…のです。
まして300BのメーカーがWE以外にも多く存在する現在は「寿命3万時間」のWEと同じ性能だと云われても、1日4時間・年間250日聴いて1千時間ですから30年先にウソと判って文句は言えない、どうやら特性もWE発表値とは随分異なるようですから音も違って当然です。本当なら<300B>ではなく<299.5>とか<300.5>の名称にすべきではないか…と思いますが、本家本元が優しい会社なのか異議など誰も云わず、懲りずに益々300B同族が増殖しています。例えば<WE300B>の音に<KR300B>は近くても、<KR300B>にも独自の魅力が有る…と冷静に考えたいと思います。
 ≪閑話休題≫
 300Bをスイングするためにドライバー管に要求されることは
 ・想定する300Bの基本動作であるバイアス電圧71Vに余裕をもってピーク80V程度の信号電圧を送り込む。
 ・利得10〜15倍を得る。
 この2点であり、なるべく歪の少ない方法が望まれます。幸い300Bはコト<WE91型>の回路をみる限り400kΩ近いグリッド抵抗を使っています。これは直熱三極管では異例とも云うべき大きさ、回路設計では大変有り難い優秀なタマです。RCA50がグリッドリーク抵抗に10kΩ以下を指定しているのに比べても突出して「丈夫」、2A3なら最大グリッド抵抗の発表値は500kΩですが、これはマユツバもイイとこで100kΩでもグリッド電流が流れてしまう球がほとんどです。
グリッド電流が流れてグリッド電圧がアース間で+になってもカソードのバイアス値はほとんどそのままですからプレート電流が増えます。放置すると始めの内は自己バイアスなら電流は下げ方向に働こうとはするもののグリッドのプラス化はドンドン進んで、結果としてバイアス電圧はプラス方向に進んで電流が増える悪循環が起き「最大プレート損失=最大定格」を超えてプレートが赤熱⇒暴走…となって球を痛め、最悪の時は壊れます。サウンドパーツが出力管用にグリッドチョークを作る理由がこれです。
 さて初段に6SN7を使ったので2段目には前に述べた候補はあるものの、フツーに2段目も6SN7の1ユニットを使いたいのが当然です。従って2段目も6SN7の1ユニットを使うことにします。
前回のデータで、6SN7は概ね15倍の利得が有ります。
80V近い信号出力を得るには下表のデータを参考にするともっと大きなB電圧を得て、プレート電圧も大きくする必用があります。
 そのデータをご覧ください。やはりRCA発表のCR結合データをラジオ技術「真空管マニュアル」から転載します。
 
     
 
 このデータの見方は次の通りで、真空管を語る時には良く出てくる表現でもあるのでシッカリ理解すると設計することが面白くなります。
 Ebb  B供給電圧…つまりプレート抵抗に加える電源側の電圧
 Rp=プレート抵抗(フツーはRLと云います)。この場合はMΩ…0.047=47kΩなど3例を示す Rg=次段のグリッド抵抗値 Rk=カソード抵抗 Ib=プレート電流 
 Ec=グリッド電圧/RMS⇒この値はRk/Ω×Ib/mA÷1000(電流の単位をミリアンペアからアンペアにする)…でも求められます。 
 Eb=プレート電圧⇒プレート電圧は、例えば表の左端の例を取ると Ebb/B電圧100V-47k×Ib/1.05mA=Eb/50.6V…としても求められます。
 Esig=入力信号電圧/RMS
 Eout=入力信号が上記の場合の例の際、プレートから得られる信号電圧/RMS A=利得倍率=Eout÷Esig KF=歪率
  
  表の段落の最下部分の記載は使用例の最大値を示しています。Esig/Maxの際のEout/Max⇒その際の利得倍率と最大例を許容している歪率を示します。
  つまり、表の左端の例では0.95V/RMSが信号に入った時にはプレートに12.5V/RMSの信号が発生し、その時は13.1倍の利得が有り、その数値は歪率3.9%の際のものである…と云うことです。
  音楽信号はピーク値ですから、この√2倍となります。
  100Vと250Vの電源部の各3例の、プレート抵抗と次段のグリッドリーク抵抗との関係や、その利得倍率などに特に注意してよ〜くデータを見ると、プレ ート電圧と信号出力電圧の関係が判ってき  ます。このコトに深い洞察力を持てば自ずから真空管の本来持つ動作と、ひいては回路設計に大きな興味が生じるのです。

 
 この表から2段目の6SN7の動作を探ります。
電源電圧100Vの動作例は無視して250Vの例で、最も大きなスイング電圧を得られる動作は表の最下項に記された<Eout>から、プレート電圧47kΩの52.5Vと100kΩの53Vで事実上同じです。
 300Bをスイングするとして、その動作例を表から抜き出しますと
 ・プレート抵抗47kΩ  300Bのグリッド抵抗270kΩ カソード抵抗2.2kΩ プレート電流2.4mA バイアス5.28V(カソード2200Ω×2.4mAで計算できる)プレート電圧137V
 ・プレート抵抗100kΩ  300Bのグリッド抵抗470kΩ カソード抵抗3.9kΩ プレート電流1.31mA バイアス5.11V プレート電圧119V
設計するアンプは大切なWE300Bを使うのですから、当然当店のグリッドチョーク<GCH-60>の使用が前提です。
<GCH-60>の定格は
 抵抗値9kΩ、インピーダンス250kΩ@30Hz/2.2MΩ@1kHzで、30Hz時の最大許容入力60V/RMSつまりピーク84Vで、1kHz時にはピーク100V以上でも問題の無いコトを確認しています。
従ってプレート抵抗100kΩ時に要求される300Bのグリッドリーク抵抗に470kΩのデータはグリッドチョークにもそのまま適用できますが、実際にはもっと安全圏のプレート抵抗47kΩのデータの方が好ましいと考えます。
 一方プレート電圧と<Eout>の関係を見ると、次の球のグリッド抵抗が『十分に大きな値』ならプレート電圧137Vの約38%の交流出力電圧が実効値=RMSで得られることも判ります。
表の他のデータから予想しても6SN7のように内部抵抗がある程度低い球なら、プレート電圧の35%〜40%の実効値出力が得られそうです。逆に云えば次段のバイアス電圧の2.5倍〜3倍のプレート電圧が確保できれば求めるドライブ電圧が得られそうです。このプレート電圧と次段のドライブ電圧との「比例関係」に気付くことはアンプ設計の過程で記憶すべき発見です。
このページの下の方にある連載冒頭のキットの回路図を思い出して下さい。6SN7の2ユニット並列でもプレート電圧は110Vと云う設定で本当に300Bがドライブ出来るのでしょうか?
 実際にはピーク電圧で80Vが欲しいのですから80V÷√2≒57Vつまり60Vほどの実効電圧を得れば300Bがスイングできる…と予想しても差し支え無いでしょう。60Vの実効信号電圧を得るにはプレート電圧はこの約3倍の170〜180Vを得られれば十分余裕ある設計になりそうです。
 
 ここで思い出して頂かねばならないのは、WE262Aの動作例で述べた歪の少ない設計手法⇒⇒
・プレート電圧の最低2倍はB供給電圧が欲しい。
・出来れば球の内部抵抗の1倍以上のプレート抵抗にしたい。
 …と云う条件です。では6SN7の1ユニットの動作を表すEp/Ip曲線を見ましょう。
        
表の軸縦がプレート電流mA、横軸がプレート電圧でグラフ内の数値はバイアス電圧です。
単純に横軸180Vのラインを見ると、電流は2.5mA程度から上の方が線が立っていて良さそうです。仮に2.5mAとの交差点を見るとバイアスは−7.5V程度、5mAなら−6Vほどです。
しかしココで重要な計算をする必要があります。それは6SN7の「プレート損失」のチェックです。
        

 この表は抜粋なので判りにくいのですが、データの3行目の5.0(※7.5)の数字の単位がプレート最大損失=最大定格/Wを表します。
しかしこのデータは詳細に調べると<6SN7GTB>に代表される高規格球のもので、末尾に何も付かない<6SN7>は半分の2.5Wmaxですから要注意です。
 しかもカッコ内に内部ユニットを2ユニットとも使うなら2ユニットの合計で7.5W以下でのオペレーションにしなさい…との規定もあります。
ここでは初段の使い方を低めに設定するので2段目には同じ球の第2ユニットを使うとして、最大4Wを上限としましょう。
つまり180Vのプレート電圧を必用とする一方で、電流との積は4Wを下回らないとヤバいのですから4W÷180V=22mA以下(フツーの6SN7なら13mA以下)、それでも十分余裕はあります。
 余裕があるならもっと電流を流す方が良いだろう…と考えるととんでもない間違いをします。
ナゼならもう一つの重要な要素を忘れてはなりません。それは3極管は電流を増やそうと思えばバイアスを下げなければならないからです。バイアス電圧=スイング電圧です。
300Bのグリッドに80Vを送り込むにしても6SN7は利得は15倍が限界です。そこで80V÷増幅倍数15≒5.3V…つまり6SN7自身のバイアスが、もし5.3Vを割り込むと初段からの信号電圧が門前払いとなって受け入れられず、結果は重要な2段目として300Bに十分大きいスイング電圧を送り込めません。
ここでついでに初段も検証しておけば、初段も15倍するとして、2段目のバイアスを6V程度に決めても初段は最初に想定した0.5V以上のバイアス電圧を確保すれば良い…ことになるので何ら問題はありません。
 再びEp/Ip表を見た時、−6Vよりも深いバイアスでプレート電圧180Vのラインを読むと5mAまでの好きな電流値を選べることが判ります。
ここでも大きなポイントがあります。仮にプレート抵抗の両端に、球の内部抵抗と同じ電圧の最低180Vを与えるとしてプレート抵抗値を計算すると180V÷0.005A=36kΩ…となります。これは今回の回路設計ではプレート抵抗としてミニマムの抵抗値と考えます。ナゼならWE262Aで学んだように、プレート抵抗を内部抵抗に比べて大きな値にすればするほど歪が減る…という結果が得られるのです。そのためには電源部から安直に電圧を降下させてしまうB回路のフィルター回路そのものの設計が絡むことは後に説明します。

 以上でドライバー段の大まかな計算がまとまりました。
つまり-6Vよりも大きなカソード電圧と、プレート電圧180V(アース間ならバイアス電圧6Vを加算して186V)以上を与えると300Bを少ない歪率で余裕をもってドライブできそうです。
でもドライバー球の「音」も大きな要素、何度も繰り返しますが後段の300Bで4倍近くもドライバー段以前の「音」を増幅されるのです。
経験から申せば、このプレート電圧180V…と云うのは6SN7/同GTB/5692の「音楽的な音」として許せるプレート電圧の上限ギリギリです。
その意味は、プレート電圧が200Vを超えるようなオペレーションの傾向としては、低域が薄くて高域寄りになって行く傾向があるからです。
設計上もっと大きなプレート電圧を与える方が良さそうではあっても、アース間にて200Vを少し下回る辺りが許せる「好い音」である限界と考えて下さい。
コレは飽く迄個人的主観ですが、自分用ではなくヒト様にアンプをお届けして来た実績から得た「経験値」であり、単純に電気回路だけを追究している技術屋さんが設計する回路とは主観…立ち位置が異なる、音楽優先姿勢からの主張です。
仮にドライバー段にWE349・6V6・EL34等々の3結を使う場合でも250Vで設計すると、アンプそのものにドライバー段のキャラが色濃く着き、面白くありません。それらの使用に於いてももフシギと実質プレート電圧は200V±20Vが良く、球をパワーチューブと同じ使い方をすべき部位でもありません。それはカソード電圧が高くなることにも要因が隠されているような気がします。
 このようにプレート電圧の設定は「音決め」に大きく関与しますから、出力管も含めてどのような球でも製作後に必ず多少は調整すべき項目なのです。
アマチュアの方がアンプや出力管の音質を述べる際、わずか1台か2台作ったり聴いたりしたから…と云ってあたかも「あらゆる想定を試みた…」かのように述べたり、他からの「伝聞証拠」を自身の意見のように吹聴するのは『口害』です。無論我々プロは尚更…で、アンプのどの部分にも多くの可能性や未体験の音があり、その意外な素晴らしさに喜んだり嘆いたりするものです。
そして音が万一気に入らない時には、そのアンプが正しい設計か否かも大いにアヤシむことです。
どのようなアンプであっても正しく動作しているコトが最低の条件です。
アンプが完成して音が出たら終わり…ではなく、アンプの完成は音の調整では「始まり…」そのものです。
キットでもその外観に惑わされることなくまず回路も見れば、お粗末な部分は一杯あって球や電圧について設計者がどこまで理解しているのかは疑問、購入には二の足どころか三の足も踏みます。
 何せWE300Bのプレート電圧を350Vに絞った動作例だけでも、最初に表でお示しした通り6例もあるのです。無論筆者も全部の音など知る由もなく、その検証など生涯ムリですから「WE様」唯一製品化した91型シングルのオペレーション例を信じて作るのをオススメする所以です。
でも勘違いしてはならないのは、同社では「91型」は小劇場用のローコスト製品としての 位置付けに過ぎず、実物を見ると配線材から使用部品まで比較的ローコストなものを使用しているのです。




 WE300B/SEの設計と製作D

 <電源部を考える>
 ここでいきなり全回路をご覧ください。
この回路図は回路設計は当方で、実機製作とそれに基づく微修正後の回路の作成はS氏の手になります。各部電圧等の設計との誤差は5%以内に収まりました。
真空管…特に増幅段に関しては<RCA/CR結合データ>でも『50%の誤差でも概ね動作は変わらない』そうですから、ドライブ電圧の能力は電圧比例で変化しても動作そのものは意外とラフでから問題はありません。
 S氏はお知り合いから300B/SEキットの完成品を譲り受けました。元のオーナーは音質にご不満なのですから当然S氏もご納得は行かず、悩まれた末に当方にキット付属の回路図を送って来られてサデッションして欲しいとのご依頼頂いたのです。
KIT添付の回路図は敢えて掲載しませんが、初段と2段目を直結とした、KIT製品に関心のある方にはお馴染みのもので、回路として見たときに多くの矛盾が見て取れるのが惜しいです。
 サウンドパーツはこれでもメーカーですから、製作時間を束縛されるそのようなご相談には本来深入りしません。いい加減な忠告や進言は後日に尾を引く懸念もあります。
でもソコは人間…S氏に上手く乗せられてしまったのですが、ほぼ当方設計の通りに製作されたことは敬服できます。
多くの経緯を経てやっと下図に示した回路図に至りました。
 ところで誤解されないようお断りしますが、この連載をルル述べてきたのは飽く迄シングルアンプを設計する基本を、300Bを例にこの機会にサウンドパーツ流に解説しているに過ぎません。
 誤りは無いとは思うものの「交流理論」に基づく学者的解説ではなく、ご注文頂いて当方にて製作している300B/SE回路でもありません。
本来はKITという、誰が作っても一定の成果が保証されるはずの製品が、<300B>と云う著名な真空管の名を冠しただけでAKB48的人気でWE球を用いなくても高価に売られます。
音質よりも「売らんかな」を優先してアマチュアの自作ファンを欺いているので、その納得の行かない部分を同じ材料なら「私ならこうする…」と云う独断的な解説をしています。
KITは回路だけではなく…例えばアースポイントの取り方などもイイ加減で、KITと云う名で「逃げて」います。ハムが出ても「直熱管には常識」と非常識な言い逃れをするのですから呆れます。
それはごく一部の例外を除いて全くのウソ、少なくとも高能率スピーカーの50センチ前でハムを感じるなら改善の余地があ

  ※掲載記事に沿って2013年2月に実機に基づき訂正された回路図です
    今後2段目のプレート抵抗を56〜47kΩに変更して、少しプレート電圧を高めに設定の予定です
    増幅段のヒーターも現実には電源トランスのヒーター端子2ヶ所とB巻線のセンタータップを33Ωの抵抗2個で結んでいます
 

  <整流>

 
電源部に整流管を使う理由は「真空管アンプはかくあるべし」という既成概念とルックスから来るものです。
設計通りの電圧と電流が得られるなら整流管はそれなりに便利ですが、ソケットが合うからと云って自由に交換できる…と思うとヤケドします。
傍熱整流管を使うとヒートアップ・タイムが稼げるメリットがあります。
今回のように直熱出力管を使うアンプに直熱整流管を使うと、ヒートアップ時間がほぼ同じなので整流管からB電圧が加わると同時に電流のほとんどを消費する出力管にも電流が流れ、コンデンサーに必要以上の電圧は加わらないのですが、傍熱出力管のアンプに直熱整流管を用いると、マッキンMc30/Mc60に例はあるものの、ダイオードの両波整流と変わらないので大きなメリットはありません。
 整流管の良いトコロは「両波整流」であり、冷静な回路設計ではデメリットの方が多いと思います。
その理由はフィラメント/ヒーターの消費電力と変換効率、ダイオードによる両波整流も同じように優れています。
 余談ですが専門誌では「ケンカ中」の某国製の整流管とか真空管をベタホメしたり、それを装備したアンプに高評価を与えたりしています。
最初だけ良くて2〜3年で球の天頂部や側部に黒点や妙な焼け跡がつくのが某国球の実態でこれはハッキリ異常です。往年の良い真空管でも長く使うと確かに天頂と側面の一部は少し茶っぽくなるもののそれは正常、黒い斑点が着くことなどはあり得ず明らかに内部金属が劣悪で短命の証拠です。
私個人としては、世の中で最も早く良いタマが入手できなくなるのは整流管だと考えています。最も一般的で高性能なGZ34は良いものが既に少なくて高価です。
ステレオ構成のアンプでは電流容量が整流管1本では不足する上、劣化とともに電流が落ちてしまう整流管をフィールドスピーカーに使わない理由も将来を危惧するのが理由です。
整流管は
・劣化する…整流管は回路の電流容量にもよりますが、当然経年で劣化します。多くは出力管より短命で消耗品と言え、私には274B刻印に10万円を投資する意味が理解できません。整流管が劣化してエミッション電流が流れると、それは整流管で得られる電流と逆の方向なので、整流管はエミッション電流をプラスした電流を回路に供給しようとします。その結果はムリをして電流を出そうとするので急速に劣化が進む…と云う結果になります。
厄介なのは、整流管の劣化が判るのは本当にダメになって音に影響が出るようになってからです。時にはチェックしませんと寿命までアンプは正常と思い込んでしまうワケです。
・エネルギー・ロスがある…ヒーター・フィラメントのロスがあります。最終型のGZ34で5V×1.9A〜5U4/5Z3系なら5V×3Aはロスであり、電源トランスの発熱源ともなります。
 また理論上のAC電圧×√2倍で得られるDC電圧は、何のロスも見込まない無負荷時であり、実際は最大許容電流値の80%消費くらいの時の経験値として
 ダイオードは交流の1.3倍程度の直流電圧
 5U4/GZ34で1.2倍
 5R4/5Y3系で1.1倍
 274に至っては1.05倍〜1.1倍 
 …コレは飽く迄目安ですが、これほど大きな内部損失の影響がありますから出力管の動作ポイントは整流管の交換で容易に変化します。。
 今まで5U4を使っていたアンプに274を使ったら低域の重心が増して…などと云う記述の理由が、同じ交流から得られる直流電圧の差です。たとえば5U4から400Vを得ていたものが274への差し替えで350Vしか得られなければ回路設計は根本的に変わりますから当然音も変化、やや低域寄りになるでしょう。それなら274でも400Vを得られるよう電源トランスの交流タップを別に付けておいたら……ブラインドテストをしたら誰も変化には気付かない…と思います。
チマタには「神話」が溢れていて、それを一蹴すると非難されそうですが、音質が鈍重になった…という方も多く知っています。
まして電流容量は5U4の250mAに対し274/5R4では150mAですから、上記のようなステレオ構成の300B/SEではホントは274の電流不足からもっと電圧が落ちてしまいます。
 さて整流管を使う方法は2つ、整流管の直後をコンデンサー接地する『コンデンサー・インプット』と、チョークを直列に入れてからコンデンサーで接地する『チョーク・インプット』があります。
 コンデンサー・インプットでは、整流した直流はそのコンデンサーが充電するまでの間は短いとは云えアースと短絡状態に陥ることから、整流管には大きなストレスが生じます。その充電時間はコンデンサー容量が大きいほど長いので整流管を痛めないようコンデンサーの容量が規定されています。274=4μF・5U4=40μF・GZ34/5AR4=60μFなどです。でも実際の91型アンプを見ると274を20μFとして使っています。コレは恐らく91型が電解コンデンサーを「2階建て」つまりアース間とで20μFを直列にしたものを更に2重(並列)構成しているからで、直列では10μFなのですが、更にそれを並列にして20μFとなります。
フィルムやオイルコンは「静電容量」ですから充電時間は瞬時で整流管の負担は大きい、でも電解コンデンサーならやや緩慢に充電されるから球を痛める要素が緩和される…からだと思われます。
 チョーク・インプットでもチョークを通ってからコンデンサーに充電されることに変わりはありません。でもチョークコイルには抵抗値がありますので整流管はショート状態にはならない…いわば保護回路です。従ってチョークコイルの抵抗値の規定があります。最も大きな抵抗値を要求しているのがやはり274で75Ωです。もし274などをチョーク・インプットとして使う時、許容電流の大きなチョークを使うと抵抗値はたった30Ω…というケースもあります。その時には抵抗を40Ω程度直列にして抵抗値を増やす必用がある…と云えます。
今回の提示回路に、どのような整流管でも問題ないように整流管の直後に75Ωを入れてあるのはそれが理由です。
 なおチョーク・インプットで取れる電流値は、理論上は電源トランスの交流電圧の0.9倍ですが、実際にはチョークの抵抗値とも絡みますので0.83〜0.85倍と見ておけば良いでしょう。
無論チョーク・インプットに使うチョークは『十分大きな値』が指定なのですが、一般にチョークのヘンリー表示は規定電流時のヘンリー数が記してあるので、電流値に余裕があればヘンリーも大きくなるのがフツーです。そこで実際には5Hと記されたチョークを使っても、次のコンデンサーが40μF程度ならチョークインプットとして動作する場合もありますが、常識的には7H程度以上で抵抗値も60Ω以上あるものを選びます。チョーク・インプットではチョークも電源トランスも唸る傾向があることにも注意します。伏せ型の電源トランスでは常識的に装備前にボルトの締め付けを確認する必要があるでしょう。
なお、シングルアンプの製作においてチョークインプットのみでリップルが大きく取れることはほとんどありません。もう1段チョークか抵抗でパイ型フィルターを組むのが賢明です。
 以上の計算で、同じ電源トランスを使っても両波整流のコンデンサーインプットなら、フツーはトランスのAC電流と同じDC[電流が得られます(表現はトランスメーカーで異なります)。
同じトランスからチョークインプットなら得られる電圧が理論値0.9倍なのは「損」のように思いますが、コンデンサーインプットの約1.5倍程度の電流が得られますからエネルギーは同じです。
ブリッジ整流はAC電流の約0.7倍と計算します。最近一部でナゼかもてはやされる「片波/半波整流」は電源トランスによほどシッカリしたものを使わないと、直流がトランスに流れるのでウナリや振動が出ます。またAC電流値の3分の1程度の電流しか得られない…と考える方が良いでしょう。単純に考えれば「片波/半波整流」はトランスの巻線が片側接地されるのだけがメリット、両波も同じでセンタータップが接地されます。取れるDCが両波は波形の+側への単純折り返しなのにブリッジはパルスであり、「片波/半波整流」は波形を一つづつ飛ばします。その分をコンデンサーの充電・放電で補うので、コンデンサーの音色が大切になります。私個人の考えですが、トランスの巻線が接地しているのは交流信号の「帰路」として観た時には大きな要素で、ブリッジや倍電圧整流はその点で面白くありません。
両波はトランス巻線がブリッジの2倍必要でセイタクだと云うデメリットがありますが、最初から取れるDC波形が美しい上にコンデンサーの充放電の動作に大きく依存しない電源です。

 真空管の大先輩から伺ったハナシによると「実は真空管で一番難しいのが整流管」だそうです。
多くは両波整流管ですから同じ管内に2個のプレートがあります。もしフィラメント/カソードとその周囲を囲んでいるプレートの精度がイイカゲンだと整流の波形の高さが異なります。それはリップルとなって効率も落ちます。一方多くの整流管の最大定格はAC500Vからの整流=DC化です。AC500Vは実効値なのでピーク電圧は約700Vです。2つ封入されたプレートの一方に交流のプラス波形700Vが掛っている時、もう一方のプレートにはマイナス波形の700Vが掛っていますから、その電圧差は1400Vを超えます。そこで整流管の最大耐圧は多く1450Vと記されているのです。
1450Vもの電圧差がガラス管の中で僅か数ミリで向き合っているので、当然に真空度も高くなければならず、それは出力管の比ではないそうです。
このように整流管は恐ろしいほど厳しい定格で成り立っていますから、目視でも良く見る必要があります。274のアンドン型プレートの中に「逆V時型」に吊られたフィラメントは丁度中央に位置しなければなりません。欧州の<U18/20>とか<FW4-500>等を見ると、プレート・フィラメント間が極端に狭く、余りの作りの良さに惚れ惚れしますが、米国製はラフです。
 直熱整流管のフィラメントは見ていれば判るほど、動作させれば熱で伸びます。そのフィラメント伸びを頂部のコイルスプリングや釣りバネで支えて逃げてあるものは、プレートが頂部から見た時に縦向きとして使うことで整流管の水平使用ができます。末尾に<Y>と付くものは水平使用にも耐える耐震構造だそうです。
 RCA83は水銀整流管で、DC化効率も1.2倍を少し上回るほど高効率です。
ただ最初だけは注意が必要で、使用する向き…多くは直立…でフィラメントのみ1時間程度余熱します。フィラメントの余熱で徐々に溜まっていた水銀が霧化し、球内は白くて見えなくなってやがて再び透明になります。それを終えて後にB電圧を加えても既に内部の水銀蒸気で満たされている状態が出来ているので問題なく使えます。その後電源を切ると冷えるまでに球の底部に水銀が溜まって次回使う時に発熱で正しく霧化します。83を使うアンプの多くは「余熱」スイッチを付けて高圧をいきなり印加しないようにしますが、実はそれは球を交換した場合だけで良いのです。…という根拠は、多くのバルブチェッカーに採用されているのが高圧用がRCA83、バイアス用が5Y3なのです。この場合83は試験機内で横方向に寝かせて取り付けてあり、試験機の盤面を水平か前側を下にして縦に使っても内部の水銀は水銀蒸気となる前の蒸発粒子の粗い時にプレートやフィラメントには触れませんから問題ありません。試験機を側面を下にして使えば83は多分壊れます。水銀蒸気がフィラメントに触れると一瞬紫色に輝いて後、フィラメントのコーティングカーボンが剥離して2度と使えなくなります…私に限らず、多くの失敗した者が申すのですから間違いありません。バルブチェッカーに83の余熱スイッチなんて無く、昔日の軍では蹴飛ばしたり放り上げたり乱暴な扱いを受けています。 このように一番最初のみ使用を誤らなければ問題ないのですが、多くはアンプの完成と同時に底を上にしたままチェックしますからその時にダメにするか、その時ダメにならなかった時には正立させたときに必ずダメにしてしまいます。
 つまり83整流管付きアンプを裏返しでチェックする時には5Z3と差し替えて行うか、最低30分の余熱が必用です。


 電源部からプレート用に高圧を供給する時に誤って解釈されているのは、電源部のコンデンサーの持つ意味です。
「リップルの少ない直流を得る」ことだけが目的と思われ、最近は半導体のリップル除去回路でチョークを略すものも増えています。
でももっと大切な目的が有ります。それは…
『プレート回路の帰路』
 でもあることです。
各段の真空管で増幅された信号はプレート抵抗(当然出力トランスも含む)の両端に発生し、増幅された交流信号として取り出されます。
取り出す信号はプレート〜接地間に生じたものであり、そのためにはプレート負荷抵抗のB側が交流的に接地していなければなりません。その役をコンデンサーが担っています。
当然コンデンサーには質の高いものが必要ですが、一方では出来る限り低域まで伸ばす必要がある…つまりコンデンサーは「低域時定数」でプレート抵抗と絡んでいます。
増幅段に用いるプレート抵抗の多くは大変大きな値の抵抗ですから、増幅段のB側を接地するコンデンサーはそれほど大きな値は必用ありません。
でも出力管のプレートにつながるOPT/出力トランスの実測抵抗値は低い値を示すので無視できません。
その抵抗値が大型コアでロスの少なさを強調したものなら100Ω程度の抵抗値しかありません。
もしチョーク後でOPTに直結されるコンデンサーに、粋がって旧来のオイルコン10μFを使った…とします。この場合の低域カット周波数は
 159÷(0.1kΩ×10μF)=159Hz
 …つまり、低域は約160Hzで既に3dBも落ち、それ以下はもっと落ちてしまいます。それ以下の低域はチョーク〜整流管を通じてトランスのセンタータップからアースに落ちるのです。従ってこの場合最低でも40μF以上の値、極端には大きなμFほど自然な低域が得られる…と考えても良いことになります。

 さてこのアンプで増幅段へ行く供給電圧にドロップ用の抵抗を入れないのはナゼでしょうか?
それはこの回路ならOPTに行くB電圧は大きな容量の電解コンデンサーとチョークでプリアンプの電源並みにリップルの無いものとなっているからです。
十分リップルが取れてさえいれば増幅段が仮に2段で構成されていてもπ型フィルターの必要性は全くなく、今まで申したように供給電圧は高いほど、その分プレート抵抗を大きな値にして歪率の小さな増幅段が設計できるのですから、チョーク後のコンデンサーの+側から増幅段にも直接供給しても良い…と云うよりも遥かに理想的な供給方式となります。
 注意するのは、前述の通りコンデンサーはプレートで得られた信号を取り出すために接地するのも大きな使命ですから、どの段に電圧を供給する場合でもこのコンデンサーから直接格段のプレート回路に「枝分かれ」するように送ります。そうでないとプレート〜プレート間の配線の持つ僅かな直流抵抗が干渉を生みます。コンデンサーから各部独立で供給すれば、その配線が持つ僅かな抵抗値はプレート抵抗の一部となるだけ、一切の干渉がなくて電源部が前の段との間でもつ「低域時定数」が無くなるのでブロッキング発振などの恐れも皆無となります。

 さきほどオイルコンデンサー…つまり油含浸箔コンデンサーについて少し述べました。
PCB/ポリ塩化ビフェニールは有毒物質ですから、幾ら当時のコンデンサーの音が良かった…などの風評から「何でもあり」のオーディオとは申しても使うコトは犯罪ですから止めましょう。
私がガキの頃、豆腐のような形状のオイルコン(恐らくPCB入り?)を電気技師だった父親からもらって分解したことがありました。何マイクロファラッド(μF)かは記憶しませんが、油を抜くと茶色の薄紙が錫箔と密着して巻かれてあるだけで、幅7〜8センチ×長さ10mほどの端っこに表裏二つ電極から薄い金属がガラス端子の内側に接続されていました。無論その時は何も感じず、面白くもないので捨てただけです。PCBで手はベタベタになり、ひょっとしたらその後にアトピーになった原因だったかもしれません。余談ですがそれが原因と云うのはアヤシクとも、アトピーは数年前に奇跡的に治るまで何十年も私を苦しめました。
 問題はオイルコンの構造です。電極は金属箔の7〜8センチ×10mと云う大きな面積のわずか7〜8センチの部分にしか付いていません。アンプの電源で使うだけならは「蓄電器」であれば良いので、それでも動作だけなら不都合はありませんが、この構造から想像しただけでも高域での伝達特性が良いとは思えません。仮にそのオイルコンが10μFとして、現代のフィルムコンデンサーなら同じ構造でも長い方の10mの側に電極が付けられます。僅かに電極をずらせてぐるぐる巻きにしてから両端に出ている金属箔に「ハンダ溶射」してリード線を出す構造です。同じ10μFであっても高域特性は段違いだと誰でも想像できます。
これが一部ファンに珍重され、スピーカーネットワークなど音声回路の低域カット用に旧いられるオイルイコンの音の悪さの原因です。大音量では何とかなっても、微弱信号では全く情報量が欠落する欠点があります。
そこで211や845などのアンプでよく見かけるオイルコンは少なくとも現代のフィルム型のオイルコンならともかく、30年以上も前のものを用いると高域の魅力は薄れます。


 WE300B/SEの設計と製作E
 
 <
出力管まわりの設計>
 いよいよ300Bそのものの解説となるワケですが、実際にはそのオペレーションはこれまでの段階でほとんどお話ししているので語ることはほとんどありません。
300Bは自己バイアスの時には最大プレート損失40W/100mAですが、固定バイアスではマックス70mAの規定があり、常識的にプレート損失も9割を超えてはなりません。これは全ての球に言えることです。
自己バイアスの<91型>ではカソード抵抗に880Ωを用い、80mAと規定しますのでバイアス計算では880Ω×0.08A=70.4Vです。ではこれが本当のバイアス電圧でしょうか?
WEのマニュアルには300BのフィラメントをDC点火するとき、フィラメントの基準電圧を3.5Vと見て計算するように…との記述があります。
 私も先輩にバイアス電圧を仮に70Vと設定したとき、DC点火するとフィラメント1番に+5V/4番に0Vを掛けてDC点火するので、それぞれのバイアスは65Vと70Vとみなせることから、当然65Vの側にやや多めの電流が流れ、従って精度の高い熱温度計で観測すると1番側のフィラメントの方が4番側よりも温度も高くなっている…と教えられました。
 でもコレは全くウソだったことを後日知ります。
その実験はこうです。
DC点火の際、電流容量があればハムバランサーはなるべく小さな値の固定抵抗2個で構成します。仮に20Ωを1番と4番に付けてその中点にカソード抵抗880Ωを付けてアースに落とします。
実験をしたときにはプレート電流はピッタリ80mAでした。1番ピン(フィラメント5V側)と4番ピンの間にはハムバランサー40Ωによって125mAが流れています。プレート電流もカソード抵抗に向かって流れますから、この場合は80mAのピッタリ半分の40mAが加算されますので125mA+40mA=165mAが流れ、1番ピンから880Ωには20Ωの抵抗で3.3Vの電位差が生じます。
一方4番ピン側からは125mAと逆方向にカソード抵抗に向かって40mAが流れますから125mA−40mA=85mAが流れ、同じように880Ωに向かって1.7Vの電位差があります。つまり3.3V+1.7Vでフィラメント5Vと計算は合います。これはプレート電流がピッタリ半分づつフィラメントに流れていると想定した理想数値なのですが、何と現実もその通りになったのです。
 つまり
先輩がプラス側からの方が電流が多いと言ったのは全くのデマであり、空想にに過ぎなかったのです。実はこの現実は後日UV211や845のように10Vのフィラメントでも確認できました。
211球は1000V/自己バイアスでも約50Vと300Bよりもバイアスが浅く、正直のところ両フィラメント端子から全く同じ電流値が流れたことにはびっくりしました。20VのフィラメントのGM70も全く等しい電流値でした。
ここで気付くのが880Ωの自己バイアス抵抗には別途に3.3Vの電圧がバイアス値として存在することです。僅かとは云えこの分だけ電流帰還が掛ることになるのです。このことはバイアス抵抗にバイパスコンデンサーを付けるよりもフィラメント1番/4番に2端子からアースにバイパスコンデンサーを付ける方が少しでもゲインが多くなることになります。
 もし固定バイアスで製作したとき、ウエスタンの云うフィラメント固有のバイアス値3.5V(前述では3.3Vになることを証明)も計算しておきませんと、単純にマイナス71Vを与えたのでは3.5V分電流が減ります。
 300Bのように5Vなら余り気にすることはありませんが、<GM70>のようにフィラメントが20Vもあるものは大問題です。しかもこの球は電流も大きいのでほとんどが固定バイアスで製作することになります。
ではこの場合のフィラメント固有のバイアス値は幾らか…と申しますと300Bがフィラメントの66%ですからほぼ13.5Vになるのも事実です。固定バイアスー90Vを作れば規定の電流が流れるか…と思えば、自己バイアスとして13.5Vが既に掛っているので、バイアス電圧は76.5Vが得られるよう設計しておく必要があるのです。
 負荷抵抗RLは次の機会に述べます。